消えたキッド

   その日、初めて見るルーのドレス姿に、俺たちライダーは目からウロコが落ちる思いだった。俺は思わずつぶやいた。
「お前がしっかり見張り番やらないとな、キッド」
すかさず、ビリーが答える。
「キッド?そんな奴いたかよ」
俺は笑った。奴のきつい冗談には慣れている。

   ところが、他のライダーたち、バックやアイクは笑わなかった。言った本人、ビリーも真顔でいる。
「何だよ、冗談を笑っても悪くないだろ」
俺が言うと、ビリーは言った。
「誰が冗談なんか言うかよ。キッドって一体誰なんだ?俺たちの知らないうちに、ルーにボーイフレンドでもできたのか?」
「何言ってるんだ。キッドだよ、キッド。ここにいるだろ」
俺はビリーにうんざりしながら、キッドが座っていたイスを指差したが、そこにキッドはいなかった。
数秒前までキッドの姿がそこにあったはずだが、誰もいないイスがあるだけだった。ルーは俺たちに近づいてくると、ちょっと気取ってそのイスに座った。
「あれ、キッドはどこに行ったんだ?さっきまでここにいたのに」
俺が言うのを聞いて、ルーが不思議そうな顔をした。
「キッドって誰?」
おいおい、ルーまでもが冗談を言うのか。今日は4月1日じゃないよな。
「もうお前らにはついていけないよ。いい加減終わりにしてキッドを呼んできたらどうだ」

   バックが俺の目を覗きこんだ。
「お前さっきから変だぞ。大体、"キッド"だけじゃわからないよ。本名は何て言うんだ?」
「知らない…」
俺はそう答えるしかなかった。
「名前もわからないんじゃ探しようがないな」
横でアイクが心配そうな顔をして俺を見つめている。
「夢でも見たんじゃないかって、アイクが言ってる」
「何言ってるんだ。俺たちの仲間だったんだぞ」
俺はムキになって言い張った。
「ライダーは、お前を入れて全部でここにいる5人だ。ビリー、アイク、ルー、ジミー、そして俺。他にはいないよ」
「何だって?!」
俺は真っ青になった。そんな…俺の記憶では、キッドという男が確かにライダーの中にいた。やたら優等生ぶっていて、ケイティという馬を持っていて。俺の記憶だけがおかしいというのか?
「きっとジミーは、ルーの姿にびっくりしたか、頭でも打っておかしくなっちゃんたんだよ」
エマが笑う。
事の重大さに誰も気づいていない。この中でキッドを知っているのは俺だけだ。皆は、そんな奴は存在しないと真顔で言う。一体何が起こったんだ。俺は混乱するばかりだった。


   何日かが過ぎた。三日たっても一週間たっても、キッドは現れなかった。キッドというのはきっと俺の想像が生んだ人物だ。それより仕事だ。ライダーの仕事は辛いがやり甲斐があったし、紅一点のルーとは親密になった。俺の人生には珍しく、楽しく幸せな生活と言えそうだ。ただ、やはり頭のどこかにひっかかるものがあったのは否定できない。

   そんなある日の夕食時、ティースプンが言った。
「この仕事も忙しくなってきたから、もう一人ライダーを雇うことにした」
俺は思わず頭をあげた。「そいつはキッドって名前じゃないか?」
「ん? 名前は忘れてしまったんだが、確か南部の出身だと言ってたな」
「そうか」
やはりキッドはいたのだ。俺の記憶の順番がおかしくなっているだけで。これですべてが元通りになる。これで良かったんだ。きっと奴はルーと仲良くなるだろう。でも俺だって負けるものか。ライバルがいてこそ張り合いも出るというものだ。

   翌日、俺が仕事から帰ってくると中継所の入り口に皆が集まっていた。俺が近づいていくと、中の一人が立ち上がった。ティースプンが紹介する。
「ジミー、これが新しいライダーだ。仲良くしてやってくれ」
その青年は白い歯を見せて微笑むと手を出した。
「ノア・ディクソンだ。よろしくな」


ビリーが言った一言がキッドを消してしまうというお話です。
その瞬間、ジミーだけがパラレルワールドに飛んでしまい、キッドのいない世界で暮らすことになります。

ビリーのセリフは15話「一夜かぎりの淑女」で実際に出てきたものです。個人的に好きなセリフなので、いつか何かに使おうと思っていたのがこんな形になりました。
キッドは「キッド」という呼び名しか知らない人物なので存在が希薄、という意味もこめてみました。
もしかしたらノアも「キッド」と呼ばれていたことがあるかもしれません。

キッドファンの皆様、ごめんなさい。別にキッドをいじめたいとか消したいという意味ではございませんので。


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